うすうす感じていましたが、私は何も知らない人間でした。
世界への、今生きる社会への、歴史への、文学への、自然への、哲学への、科学への、先人への、身近な人への、あらゆる事象への、つまるところ「自分以外」のことへの関心を向けたとき、はたと気付いたのです。
「私は何も知らない」と。
本当に知らない。微塵も知らない。
知らないことを知ってしまった私は、まるで果てしない荒野にひとり取り残されたような気分になりました。
丸裸で、とても小さくて、恥ずかしく、心細い思いにおそわれました。
困り果てた私ですが、まずは一歩ずつ荒野を歩み始めることにしました。
視界には、ごく小さな点のような景色が見え始めました。
遠くには救いの手をさしのべる人らしき姿を認めました。
まだ遠い。遠いけれど、いくらか望みはある。
知らないことを知ってしまった私の旅は、今、始まったばかりです。