人前でアイデアを言語化することの大切さ

最近、はてな創業の地である京都リサーチパークさんの創業支援やイノベーション創発に関わるお仕事をさせていただいています。そう、はてなは2001年に京都リサーチパークにある2x2mのブースで産声を上げたんですよね。今はそのブースはなくなって、BIZ NEXT(https://www.krp.co.jp/serviceoffice/)というコワーキングスペースになっています。

今日は、学生さんを対象にしたオンラインイベントにゲスト参加し、チームに分かれてサービスアイデアを考え、発表するプロセスを皆さんと体験しました。

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今回は、コロナの状況下で問題に感じたこと、良かったことについての体験談をそれぞれ出し合った上で、それらをもとに「発見」を一つ決めて、その発見が「課題=解決したいこと」であればソリューションになるサービスを、「価値=良いこと」であれば、その価値を社会に提供できるサービスを考える、というものでした。

いきなり「ハイ、何か新規サービス案を考えてね」というお題を出されてもなかなかビジネスアイデアにはつながりません。まずは体験談を共有し、「自分ごと」からサービスにつなげていく、というビジネスアイデア構築の基本をみんなで体験したわけです。

私が参加したチームは、学生さんが「コロナ状況下で家族と過ごす時間がとても楽しく良かった。親の作ったトマトが食卓に登場して盛り上がったり、母とパン作りを楽しんだり」ということで、「家族の暮らしをシェアするSNS、名付けて famistagram 」を作ろう!ということになりました。

もう一つのチームは、読書好きな学生さんの言葉をきっかけに「ウェブで自分の蔵書を公開し、興味を持ったユーザーにおすすめの本を紹介する"オンライン図書館"のサービスを作る」というアイデアになりました。こちらもオンラインを駆使して学んでいる学生さんならではのアイデアだと思いました。

日頃、感じていることを人前で言葉にする、そこからアイデアをサービスに発展させる。その流れを何度も体験していると起業への一歩が踏み出しやすいですし、起業にかかわらず、何かプロジェクトを立ち上げるハードルが低くなって良いですよね。

自分だけで頭の中で考えていても、形にするのはなかなか難しい。何か感じたことや、テーマが見つかったら、人前でアイデアを言語化することで、次の行動に移しやすいっていうのはあると思います。思ったことは言語化して、そこから何ができるか発展させていきたいですね。

 

新たな価値創造の仕事とお金を稼ぐための仕事と

雨、雨、雨の日々が続いている。夜明けに激しい雨音を聞くたびに、各地で被害にあった人たちのことを思い心が痛む。岐阜に移住した友だちも、いっとき建物の2階に自主避難したそうだ。さぞや不安な思いをしたことだろう。京都では、鴨川が下流の方で土手を歩くことが困難になるぐらい水かさが増えていた。

そんな中でも、いろんな人と出会ったり交流したり、毎日せわしなく過ごしている。忙しいという字は、心を亡くすと書くから忙しいんだ、ということが言われている。それを知った時から私は「忙しい」という言葉を人に言わないように自分に命じている。実際、やるべきことが増えてプレッシャーを感じる時は、「やりたくなければやらなくていい。自分の心と身体がやりたいと言っているならやればいい」と自分に言ってみる。そうやって自分を試すと、結果、やりたいからやる、ということだけが残る。だから心を亡くしてまで動く必要がなくなるので、しんどくない。楽しい。

しかしそうは言っても、やっぱりやるのが億劫なこともある。なんとなく後回しにしたいことや、どうせならやりたくないから人に任せたい作業もある。一方で、何時だろうが疲れていようがやりたくてたまらない、自ずと自分が動いている作業もある。

それって何の違いがあるのかな。

しばらく考えて結論として出たのは、自分の中で「新しい価値を創造している」と感じている時は、放っておいてもやりたくなる仕事であり、「お金を稼ぐためだ」と感じている時は、億劫になる、ということが判明した。

日々、小さな会社ながらも仲間と作った会社の役員として動いていると、やはり収益を意識して動かねばならない。その結果、営業が実って仕事につながり、案件を順当に進める、ということが大事な業務になる。

一方で、営業観点ではなく「いいことだから」関わっている活動もあって、その結果、仕事につながっている案件もある。その場合は自分の中で「これは新たな価値創造につながる仕事だ」と思って動いているので、最終的にお金につながるかどうかはあまり問題ではなかったりする。しかし意外と動いていればお金につながるのが面白いところで、特に会社経営者として相手と関わっていれば、やはり最終的にお仕事として発注してもらえたりする。こう言う、いつ実を結ぶかわからないけど、価値につながるという気持ちの元に活動してタネを巻いてものが最終的に果実になった時、ものすごい喜びを感じるのだ。

しかしながら、考えた。自分がお金のためだから億劫だ、と勝手にレッテルを貼っている仕事だって、社会に何かしらのインパクトを与え、それにより誰かがハッピーになっているのではないだろうか。反社会的な仕事ではないのだから、お金を払ってくれるお客さんがいる仕事である以上、その意味と価値を私の方がきちんととらえて取り組むべきなのだろう。

仕事のより好みはもちろんその人の個性や自分らしさに関連するので、やって当然なのだが、一方で、勝手なバイアスでみすみす仕事の価値を誤解しているケースもあるかもしれない。

こういうことは、常に心がけておきたいものだ。自分の感覚は、常に正しいわけではない。思い込みで色んな機会を損失したり、仕事相手や家族に対して残念な思いをさせることのないようにしたい。

関わっている仕事に対しても、その価値や意味づけをしっかりできれば、それは楽しい活動になるわけだから。同じ認知バイアスでも、ポジティブな方向に働くようにできれば良いな。もちろんそれが行きすぎると危険だし思考停止になるわけなので、常に自分に関わる事象を冷静にジャッジできるようになりたい。

覚え、忘れ、残ったものから創造が生まれる

たまたまこの記事を読んで、いま読み進めている本とリンクして膝を打った。

ジブリが「調べるよりも記憶」を大切にする理由 | 読書 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

ジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さんは長年仕事を教えた弟子の小川さんに、その日、鈴木さんが話したことをすべて記録してメールするように指示したという。それは3年続いたそうだ。また、会議では話すよりも人の発言や様子を記録することに徹しろと言ったそうだ。発言しようとすると会議の中身や流れを把握できなくなるから、というのが意図だという。どれもなるほどの話。

鈴木さんによれば宮崎駿さんは、自分が気になったものをとにかく記憶したそうだ。建物を見たらその細部まで時間をかけて覚え、その記憶を元に絵を描いたとのこと。記憶からは必ず7割ぐらいが消えて、3割だけが残る。そこからオリジナリティが生まれる。だから良いものを徹底的に覚え、忘れ、残ったものから創造する、という話はとても腑に落ちた。

心理学の知見から様々な生きる知恵を教えてくれる本、Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法では、「過去は現在よりも美化される」ことが何度も繰り返し出てきた。夏休みを過ごしている現時点の夏休みに対する価値よりも、夏休みが終わったあとに振り返る方が夏休みの価値の方が高い、つまり人は過去の出来事を美化しがちだ、ということが書かれている。

本では「だから過去の出来事にとらわれて現在の自分の状態を憂うよりも現在を思い切り生きた方がいい」とアドバイスしているが、上のジブリの記事では記憶を創作的な仕事に活かしている。

色んな意義ある情報を手に入れたり、人と会話して印象に残ったことや、本を読んで学んだことなど、そのときに頭に入れたつもりで、実はたいして記憶に焼き付けずに流してしまっていた。必要なら後からメモを引っ張りだせばいいし、ネットで調べたら同じようなことは書かれているし、本もKindleに収まっている。そんな風に自分の脳以外の外部デバイスにある情報のストックと再現性に依存していたことに気付き、ハッとした。

価値を感じた知識、見て印象に残ったもの、出来事は、そのとき懸命に覚え、自分の記憶に定着させる。その後、消えずに沈殿したものから、自分の新たな思想や創造物が産まれる。

オリジナリティは、その人なりに定着させた記憶と忘却の差し引きから生まれるわけだ。

幸い歳をとっても鍛えれば人間の記憶能力は向上するといわれている。ベースの能力には違いはあるだろうが、自分の脳のチカラを信じて、これからは「覚える」ことにこだわってみたい。