覚え、忘れ、残ったものから創造が生まれる

たまたまこの記事を読んで、いま読み進めている本とリンクして膝を打った。

ジブリが「調べるよりも記憶」を大切にする理由 | 読書 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

ジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さんは長年仕事を教えた弟子の小川さんに、その日、鈴木さんが話したことをすべて記録してメールするように指示したという。それは3年続いたそうだ。また、会議では話すよりも人の発言や様子を記録することに徹しろと言ったそうだ。発言しようとすると会議の中身や流れを把握できなくなるから、というのが意図だという。どれもなるほどの話。

鈴木さんによれば宮崎駿さんは、自分が気になったものをとにかく記憶したそうだ。建物を見たらその細部まで時間をかけて覚え、その記憶を元に絵を描いたとのこと。記憶からは必ず7割ぐらいが消えて、3割だけが残る。そこからオリジナリティが生まれる。だから良いものを徹底的に覚え、忘れ、残ったものから創造する、という話はとても腑に落ちた。

心理学の知見から様々な生きる知恵を教えてくれる本、Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法では、「過去は現在よりも美化される」ことが何度も繰り返し出てきた。夏休みを過ごしている現時点の夏休みに対する価値よりも、夏休みが終わったあとに振り返る方が夏休みの価値の方が高い、つまり人は過去の出来事を美化しがちだ、ということが書かれている。

本では「だから過去の出来事にとらわれて現在の自分の状態を憂うよりも現在を思い切り生きた方がいい」とアドバイスしているが、上のジブリの記事では記憶を創作的な仕事に活かしている。

色んな意義ある情報を手に入れたり、人と会話して印象に残ったことや、本を読んで学んだことなど、そのときに頭に入れたつもりで、実はたいして記憶に焼き付けずに流してしまっていた。必要なら後からメモを引っ張りだせばいいし、ネットで調べたら同じようなことは書かれているし、本もKindleに収まっている。そんな風に自分の脳以外の外部デバイスにある情報のストックと再現性に依存していたことに気付き、ハッとした。

価値を感じた知識、見て印象に残ったもの、出来事は、そのとき懸命に覚え、自分の記憶に定着させる。その後、消えずに沈殿したものから、自分の新たな思想や創造物が産まれる。

オリジナリティは、その人なりに定着させた記憶と忘却の差し引きから生まれるわけだ。

幸い歳をとっても鍛えれば人間の記憶能力は向上するといわれている。ベースの能力には違いはあるだろうが、自分の脳のチカラを信じて、これからは「覚える」ことにこだわってみたい。