自殺者の少ない町を旅した精神科医の本とオープンダイアローグ

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ここ数日はこの本に浸っていました。

とてもゆるりとした旅のエッセイ的な本でした。コロナ禍で地方を訪れる機会がなくなったので、この本の中で著者と共に旅をしながら地方の人たちと交わることができた気分です。

この本で著者は、日本で自殺者の少ない地方の地域を訪問し、滞在中に感じた「なぜここでは自殺者が出ないのか」を土地の人との関わりから考察しています。

そのなかで著者が引き合いに出しているのがフィンランドで自殺者を大幅に減らしたとする精神疾患患者のための回復援助療法「オープンダイアローグ」の考え方です。これと日本の自殺者の少ない町の人々の関わり合いや関係性のあり方に共通したものがあるというのが印象的でした。

オープンダイアローグでは、精神疾患患者を隔離せず孤立させずに、訓練を受けたスタッフらが患者本人と本人が関わる人たちとひたすらオープンに対話をしながら生きづらくなった理由や発症の原因を探っていく手法です。つまり、その人のコミュニティでの対話の場を作り、寄ってたかってその人に(もちろん手法を駆使しつつ)関わることで早期の回復を促すというもの。

自殺者の少ない町には、そのオープンダイアローグに通じる町の人たちの適度なコミュニケーションが息づいている、というのが著者の考えです。

オープンダイアローグの考え方、原則と、訪れた町の人たちとのエピソードの共通点を著者がまとめてくれていたので紹介すると、

  1. 即時に助ける
  2. ソーシャルネットワークの見方
  3. 柔軟かつ機動に
  4. 責任の所在の明確化
  5. 心理的なつながりの連続性
  6. 不確かさに耐える/連続性
  7. 対話主義

ということでした。例えば、移動の足がなくて困ったり、現地で調子が悪くなって助けてもらったとき、「困ってる人がいたら、今、即、助ける」という話を地元の人から聞きます。また、困りごとが解決するまで見届ける、自分に出来ないことならできる人に相談する、といった、各人に無理のかからない、けれども見捨てないコミュニティが形成されているとのこと。そこには、他者を尊重する対話があり、相手に期待しすぎず、自分軸を持ちながら接する対話主義が根付いているそうです。

私自身、個人と個人の対話が人を元気にし、コミュニティの活性につながると感じているので、とても納得感がありました。とはいえ本当に少しの滞在だけで自殺者の少ない理由が明らかになったのかというとまだまだ分からなそうでしたが、地域によって生きづらいところ、そうでないところはきっとあるだろう、そのような視点から町やコミュニティのあり方を考えていくのは大切だと思いました。

ちなみにオープンダイアローグについて詳しく書かれた本はこちらです。

オープンダイアローグとは何か

オープンダイアローグとは何か

  • 作者:斎藤環
  • 発売日: 2015/06/22
  • メディア: 単行本