河合隼雄さんと「物語」

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河合隼雄さんの著書や研究内容を全て網羅したわけではなく、きわめてミーハーな部分で知っていただけなのだけど、『村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)』や『影の現象学 (講談社学術文庫)』など、印象に残る著作から生きるヒントをもらっていた。心理学に興味を持ったこともあったけど、学術的にというよりは自分の「こころ」の扱いに困り、何かにすがりたくて心理学やカウンセリングというキーワードに反応していた時期があった。

こころの未来研究センターから広報の誘いを受けたとき、ウェブサイトを見て河合俊雄先生の名前を発見した。ああ、こんなところで息子さんが研究をされているんだと驚き、勝手に縁を感じた。センターで扱う研究テーマは宗教、民俗、幸福感、死生観、発達障害など、どれも気になるものだった。大学広報は私には難しいと感じながらも、オファーを受けるしかないと思って契約した。

あのとき、内田さんから誘われてセンターで働かなかったら、今の私はないと思う。それほど自分の人生観に影響を与えた場所であり、今も与え続けてくれている。

河合隼雄さんが大切にしていた「物語」という言葉をしみじみと感じている。物語。誰もが持つ物語。「心理療法とは、クライエントが自らの物語″をつくることを助けることに他ならない」といい、「日本文学史における物語が投げかける問題を追究することで日本人の心性にせまっていく」と語っていた。

最近、人の「物語」の価値について考えている。インターネットで注目を集めるニュースやブログも、多くが誰かの「物語」を扱ったものだ。皆、自分や他人の物語を意識し、それを知りたいと思い、それについて語りたいと思っている。

人には、その人の人生の物語がある。多くの人が自分の物語の価値に気付いていないかもしれない。けれど、人が生きてきた軌跡が物語であり、それはその人にしか作り上げられない、この時空にただ一つのものだとすれば、物語を編んだだけで人生に価値はある。そう思えば、人生はとても面白く、自分自身によって豊かにできるものだと考えられる。

私は、私が作る物語を多くの人に知ってもらいたいし、触れてもらいたい。また、物語に登場する人物と深く関わり合いたい。

「生きることは物語をつくること」、という河合さんの言葉をかりるなら、自分が作り上げてきた物語をどんなふうに人に伝え、その価値を人に提供できるかを考えている。

思うようにいかない人生だけど、私は私の物語の舞台である人生を愛している。失ってしまった愛も、掴み取れずに逃してしまった人との関係も、挫折も迷いも、私の物語の一片だと思えば愛おしい。明日からも、私は私の物語を紡ぐ為に、誰かにこの小さな物語を提供するために、この街で生きていく。

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