芙蓉の花

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一年前、ホームセンターで苗を手に入れて植えた芙蓉が、今年はたくさんの花を咲かせている。苗を植えたばかりの昨夏は、弱々しい枝を風に揺らして、ふたつほど花がついただけで、季節を終えてしまった。このまま寒さに耐えきれずに枯れてしまうのでは、と心配していた。

けれども涼しい秋、木枯らしの冬、芽生えの春と季節を過ごし、我が家の庭の土に馴染んだようだ。早くも私の背丈ほどになり、力強く枝葉を伸ばしている。そしていま、明け方には大輪の花を誇らしげ開かせて、たくさんの虫たちの来訪を受け入れている。

「庭を完成させるには少なくとも12年(13年だったかも)の歳月が必要」と言ったのは、ターシャ・チューダー。たしかに樹や花々が、土、空気、水、気候といった環境と調和するにはそれなりの歳月がかかる。だから植えたばかりの苗が元気が無いといって一喜一憂するのは早い。新しい環境に戸惑い、抵抗し、いつしか馴染んでいく(あるいは馴染めず命を終える)プロセスを見守るには相応の時間が必要なのだ。

今の家に住み始めて、はじめは夏場、毎日水やりをしていた。花木が枯れないよう、せっせと世話をしていたのだ。けれども、図書館であるイギリスのガーデナーの本を読んでから、水をやらなくなった。そのガーデナーは、乾いた大地で一切の水をやらずとも、瑞々しい庭を保つことは可能だ、なぜならその大地に合う植栽をほどこすことで、植物たちは自らの生命保持機能をもって生き延びるから、というポリシーを貫き、降水量の少ない厳しい環境の土地で、目にも鮮やかな庭を創造していた。もちろんそこには長きに渡る試行錯誤と数多くの植物の犠牲があった。しかし、環境に適した場所で生きる植物たちがいかに力強く美しく生きるのか、写真からも感じることができた。

その日から、庭に水をやらなくなった。枯れた花は数知れず。けれども、母が2008年に球根を植えた百合は今や8月にこれでもかという花を咲かせ、我が家を百合御殿にする。京都が原産という秋明菊も3年目にしてようやく美しい薄紫の花を秋に咲かせるようになった。ピンクの花と濃い大ぶりの葉が美しいホトトギス、ホームセンターで350円で苗を買って植えたユキヤナギ、ローズゼラニウム、ユーカリなど、空からの恵みの雨と陽光だけを糧に力強く生長する花々の存在が、生きる力を教えてくれている。

昨年植えた芙蓉もどうやら自分自身の環境を築き上げたようだ。来年の夏には、コンクリート塀の向こうにまで枝を伸ばし、道ゆく人の目を楽しませるようになるかもしれない。