再会

 Norikoさんはシリコンバレーで出逢った数少ない現地在住の友人だ。Foothill collegeというコミュニティカレッジの英語グラマークラスで知り合った。ニコニコ笑顔で常に明るく、誰とも気さくに話す気の良い姉御、という感じで、すぐに意気投合した。夫が先に日本に戻っていて、しなもんとふたりで過ごす時間の長い私の良い話し相手になってくれた。クリスマスにはなじみの教会にも連れて行ってくれた。帰国前に、最後にランチを共にしたのもNorikoさんだった。

 Norikoさんは、日本の外資系企業で長く働いた後、アメリカ人と結婚して渡米し、そして離婚した。その後も帰国せずに現地で単身働き、途中で大病を患いながらも学ぶことをやめず、私がアメリカを去った後にはカレッジからSan Jose State Universityへと編入し、ソーシャルワークを専攻して猛勉強の末、今年の春に学士をとって卒業した。

 久しぶりに日本に戻ってきて、今日から関西を旅行するというので、京都駅まで会いに行った。駅の近くにあるイタリアンレストランでランチを食べた。

 5年ぶりの再会だった。新幹線中央口を出て来た彼女は、長く伸びた髪に、体にフィットしたパンツとジャケット、パープルのマニキュアが格好良い。あいかわらずのニコニコの笑顔で駆け寄って、ハグしてくれた。

 Norikoさんはおそらく私よりも年が上だと思う(年齢は聞いていない)。だけど年齢を自分のハードルとは思っていない節がある。もちろん卒業後の就職活動で苦労している要因には年齢の壁があるとは認識しているようだが、だからといってそのせいで過度に悲嘆したり年齢を言い訳にするようなことは全くない。

 色んな意味で日本よりも生活し辛いであろうアメリカで、Norikoさんは同居人のアメリカ人と共に生活を楽しんでいるようだ。毎週末、Safeway(スーパー)で赤ワインを6本買って、二人で一日ほぼ1本をあけているらしい。「喧嘩をしても、ワインを呑んで一晩やり過ごすと嫌なことは忘れているからね」と笑う。トマトとアボカドのサルサ作りにはまっていて、庭で実ったレモンの汁をたくさんかけるのが美味しさの秘訣だという。京都では出来ないごちそうだ。

 就職問題も将来の不安も老いへの恐怖も、彼女からは感じない。「くよくよ考えても仕方がないでしょう。先のことは分からないんだから!」と明言する。Norikoさんにとっては、顔のシワも白髪もアクセサリーのひとつのようだ。

 今、どれもこれも中途半端でうまくいってない気がする、と話す私に対して「どうして!こんなに素敵な仕事をもらって、可愛い子どもも家族もいて、私から見れば、とっても幸せそうよ。どうして!?」とあっけらかんと返してくる。たしかに、そうかもしれない、と思えてくる。

 「行動を起こすことだけが良いアクションじゃないのよ。何もせずに時期をうかがうことも幸せになる秘訣だと思うから、今はじっとしていていいのではないかしら。悩んだときは、赤ワインをおすすめします。理由はさっき言った通り(笑)」そんなアドバイスもくれて、また笑う。はい、そうします、と心底から返事せずにはいられない。参ったなあ。

 3時の新快速で神戸に向かうというので、在来線の改札で分かれた。包み込むようなハグをして、大きなスーツケースを引っ張って人混みのコンコースに消えていった。

 お土産にもらったハリネズミの人形が付いた洗濯バサミとチョコレートを眺めていたら、またカリフォルニアに行きたくなった。あの強い日差しと、限りなく爽やかな風が吹き抜けるカリフォルニアで、体にしみついた湿気をすべて取り除いて、Norikoさんみたいに今を肯定し、ニコニコ笑いたい。