大徳寺、高桐院にいる。
戦乱の世に精神の救いをキリスト教にもとめ、意思を貫き洗礼を受けた女性、細川ガラシャの骨がおさめられた場所。
関ヶ原の戦いを前に、石田三成に人質に取られることを拒み、38歳で自らの命を断ったガラシャの生涯を思う。
世渡りと戦術と芸術に長け、信長、秀吉、家康へと次々に仕える相手をかえて生き延びた知将の夫、細川忠興。
賢くも冷徹で、彼女を愛しながら数多くの側室を持った忠興。「お前は蛇のような女だ」「鬼の夫には蛇が似合いでしょう」とやり取りしたふたりの逸話が残っている。
ガラシャの死後、忠興は壮麗なまでのキリスト教式葬儀をとりおこない、彼女の死を悼んだという。
忠興との愛憎の日々を経て、大阪で敵方の手におちることを拒み、自らの最期を決意したガラシャの思いはどんなものだったろう。
世間にも、夫にも信仰を隠し、神の教えにのみ生きる道筋を見出そうとしたガラシャがいまの世を生きていたらどんな風だったろうか。
人気のない高桐院の庭にたたずむ。
雨に濡れた新緑が視界に溢れる。
いまこの時代にいる私の生きる道筋について考える。
何の為に、誰の為にいまを生きているのか。
制約も迫害も死の危険もないこの世界で、自由であるはずの私。
その私が選び取るべきものは何だろうか?
ガラシャが死んだ年齢は過ぎてしまった。
誰も私を人質に取ることはない。
こたえがこの庭にあるわけではない。
けれど、しばらくのあいだ、ここにいて、過去や未来やいまに思いを巡らせていたい。
まもなく雨はあがりそうだ。